ぽンすけ。ブログ

主に闘病記。タイトル【欠陥品】は病気の発症とされる時期(生い立ち)について。毎月末に【月詠み】として1ヶ月の軌跡をまとめています。他は思ったこと、言えないこと、言いきれない想いを綴ってます/⚠閲覧は自己責任

欠陥品⑫/欠乏

 

母の彼氏との共同生活。

 

常にピリピリとした空気が漂っていた。

 

「おはようございます」

その一言で1日が決まるのだ。

 

私は低血圧で、朝にとても弱い。

器官が弱いため、朝は決まって声が出ない。

 

それでも振り絞って出す言葉、

なるべく元気な態度を心掛ける。

だが、そんな努力は母には伝わらない。

 

「顔が気に入らない」だの

「声が不貞腐れてる」だの

文句をつけられる朝。

 

母の機嫌が良いときだけは

「おはよう」と返事をしてくれた。

 

それでも、学校がある。

引っ越しをしたことで電車通学になった。

乗り換えは無い。

無人駅をいくつも通りすぎ、

高校から歩いて10分の駅で降りる。

 

仲良くなったクラスメイトと登校した。

 

家を一歩出れば私は自由。そう思っていた。

 

気がつけば高校2年生になっていた。

 

高校3年間の中で唯一このときだけ

クラス替えがある。

 

毎朝一緒に登校していた子とは離れたが

それでも駅で待ち合わせしていた。

 

運良く、入学早々に仲良くなった

昔イジメていた(らしい)柔道部のS君と

無口だけど笑うと可愛いK君とは

一緒のクラスになった。

 

テニス部のM君と、

当時付き合っていた彼とはクラスは離れた。

 

問題なのは女子だった。

 

仲良くなった女子とはクラスが離れてしまったのだ。

 

『またやり直しか…』と途方に暮れた。

 

どうも女子との付き合い方が分からない。

「◯◯君が格好いい」とか

「◯◯君のことどう思う?」とか、

全く興味がない。

興味があるのは音楽くらいの私だ。

そんな話、くだらない。

 

その中でも私と同じ意見の女子もいた。

少し安心した。

 

そんな矢先のことだった。

 

クラスが離れた彼氏から、突然の別れ話。

 

「他に好きな奴がいるなら、言えよ」

 

そう言われた。

 

 

はて?なんのことだ。

 

 

疑問はすぐに解決した。

彼から

「お前が浮気してるって女子が噂してる。」

 

 

私は否定も肯定もせず、

別れ話に終止符を打った。

 

噂話を信じる程度の人、いらない。

 

 

私が話したい人と話して、

それが浮気になるのならそれでいい。

 

 

 

当時の話はドライだった。

 

 

 

その頃からクラスの女子からも

一斉に無視されるようになった。

 

コソコソと噂話をしている。

私に聞こえる声で。

 

 

くだらない。

 

 

私はそれまで学年テストはトップ3に入り

無遅刻無欠席。

いくら授業中に携帯をいじろうが、

スカートが短かろうが授業中寝てようが

先生から指導されたことはない。

 

それもまた、嫌われる要因だった。

 

成績を落とせば母に殴られる。

ほぼ毎日バイトしてから予習復習。

寝る間もない生活をしていたのだ。

 

家に居たくなくて朝6時に家を出て

電車に乗らず自転車で1時間半かけて行き

制服検査が始まる前に登校していたから

指導されることもない。

 

 

ただ、それだけだ。

 

 

当時の私は、『情』というものが欠乏していた。

 

 

『愛情』

『友情』

 

 

生きていく中で、最も切り捨ててきた物だ。

そんなものがなくても、居場所さえあれば

生きていける。

 

徐々にその大切さを知ることになるのだが、

高校2年生の私には理解できなかった。

 

 

“そんなもの、いらない”

 

 

そうやって、生きていくしかなかった。

 

 

 

そんな中で

いつも通り、朝イチで登校して

教室で仮眠をとっていた。

すると柔道部のS君が同じく柔道部のY君と一緒に

朝練を終えて教室に入ってくる。

 

いつもその2人によって起こされていた。

 

そんなある日、2人に言われた。

 

「お前、女子にシカトされてんだな」

 

私は働かない頭で答える。

「あー。らしいね。」

 

Y君は、他人事だなー!と笑った。

 

 

それ以来、このY君(山縣)とは

長い付き合いになる。

 

今私が通っている心療内科の看護師だ。

 

 

 

そして別のクラスの男子が

決まって私たちのクラスに来るようになる。

 

 

後に、私の母に真正面から向き合ってくれることとなる、2人。

 

『市毛』君と

『前島』君。

 

 

この2人と共に、陸上部のK君(近藤)とも

長い付き合いになる。

 

 

 

私はまだ知らずにいた。

 

 

 

私がいる場所が、未来に繋がる場所だということを。

 

 

 

 

 

家での環境は一向に闇の中。

 

バイトしてもバイトしても、

1日100円しかもらえなかった。

 

当時の私は、母に嘘をついていた。

 

電車通学を続けているフリをして、

その定期代を自分のお小遣いとして

使っていたのだ。

 

 

一度だけ、自分のバイト代がほしくて

母に黙って私名義の通帳を探し、

カードを探し。

 

ATMでお金を下ろそうと試みたことがある。

 

 

だが、急いで取り出したカードは兄のカード。

 

 

そんなことにも気づかず、

自分で決めた暗証番号をひたすら押す。

 

 

“なんで?なんで違うって言われるの?”

 

何度も試みた。

 

混乱している内にロックがかかってしまった。

 

 

私はため息をついた。

 

 

ロックがかかって初めて、

自分のカードではないことに気づいたのだ。

 

 

 

後日、母にバレたときは

散々殴られ罵倒された。

 

 

 

「兄のを使いたかったんじゃない」

「私のを使いたかった」

「カードを間違えたことに気づかなかった」

 

そう伝えると、

 

 

 

「お前が使う金は一銭もない」

 

 

 

 

そう母から返ってきた。

 

 

 

 

自分で働いたお金すら、使えないのか。

 

 

 

 

私は次の日の朝、

高校を通りすぎ、さらに1時間半かけて

母校の中学校にいた。

 

 

何となく、足が向いた。

 

 

 

変わらない校舎を眺めながら

私は泣いた。

 

 

 

そして、保健室の前で立ち尽くす。

 

 

 

ソフトテニス部時代の副顧問。

 

 

 

その先生に会いたかった。

 

 

 

保健室のドアを開けると、

懐かしい匂いがした。

 

 

落ち着くラベンダーの匂い。

 

 

先生は振り向いて、目を見開いた。

 

 

 

中学校時代よりも痩せた身体。

力のない目。

 

 

そんな私の姿を暫く見つめたあと、

先生は温かく迎い入れてくれた。

 

 

実は母とは小学生のときから

一緒に住んでいなかったこと。

今になって母と住んでいるが上手くいかないこと。

 

高校生活に疲れたこと。

 

 

そして

「中学校に戻りたい…」

 

 

私は最後にそう言って泣いた。

 

 

先生は背中を擦りながら、

ただ話を聞いてくれた。

 

 

「前にもこんなことあったね」

 

って先生は笑った。

 

 

唯一、心を開ける存在だった。

 

 

それは高校になっても同じだった。

 

 

他に心を許せる人がいなかった。

 

 

 

本音を言える人がいなかった。

 

 

 

先生は、私に優しく言った。

 

 

 

「これから先、あなたを支えてくれる人は必ず現れるから。」

「あなたの笑顔で周りも笑顔になるのよ?忘れないで。」

「私がこの学校にいる間は、いつでも来ていいから。」

 

「たまにはこうやって泣きなさい。」

 

 

 

先生の言葉を噛み締めた。

 

この先生が居てくれて本当に良かった。

 

 

 

私は落ち着いたあと、

「学校、行ってくる」と先生に告げた。

 

 

『行ってらっしゃい』

 

 

母からでさえ、そんな言葉たまにしか

聞けなかったのに。

 

先生からそう言われてまた涙が出た。

 

「行ってきます」

 

 

なるべく笑顔で、先生に改めて言った。

 

 

 

振り返らず、足を止めず、

私は高校へと向かう。

中学校の敷地を出てからは、

泣きながら自転車を走らせた。

 

 

 

 

“私の居場所は、もうここじゃない”

 

 

 

何度も何度も、そう言い聞かせた。

 

 

 

初めて、高校を遅刻した日だった。

 

 

 

何度でも立ち上がる。這い上がる。

 

 

生きて、母に認めてもらうために。

 

 

 

 

 

高校2年生の終わり。

 

 

 

初めて心が限界を訴え始める。