ぽンすけ。ブログ

主に闘病記。タイトル【欠陥品】は病気の発症とされる時期(生い立ち)について。毎月末に【月詠み】として1ヶ月の軌跡をまとめています。他は思ったこと、言えないこと、言いきれない想いを綴ってます/⚠閲覧は自己責任

A海岸

 

 

吸い寄せられるように

11年振りにきた。

 

 

 

11年前。

 

親友が左手首を削ぎ落とすように

リストカットした場所。

その左手はいつも

アコギを奏でる大事な手。

 

そいつが奏でる音で

そいつの隣に座って

歌ってきた。

 

東京にある有名な音楽学校へ

アコギ1本持って

夢を背負って地元を去った親友。

 

でも。

私の知らないところで傷つき

悩み苦しみ

下した決断は

「音楽を棄てる」ことだった。

 

私は親友でありながらも、

夢を追うその姿に憧れていた。

私にも叶えたい夢があったから。

東京で学びたいことがあったから。

 

親に絶縁されても

そいつは夢を追いかける道を選んだ。

 

私は親に負けて

夢を追いかける道を選ばなかった。

 

どれだけ必死だったか

どれだけ本気だったか

私は知っていた。

 

何もかも棄てて

夢を叶える道を選んだ親友を

誇りに思っていた。

 

でも、違った。

 

 

地元に帰ってきたそいつは

やつれて

目に輝きもなく

ただ、息をしている。

そんな状態だった。

 

夢を追いかけることに疲れたと。

 

そう言った。

 

 

そして。

その惨劇を目の当たりにした。

 

 

彼女の苦しみに気づけなかった。

 

彼女は言った。

 

 

「親元にいるお前には分からない」と。

 

「お前は幸せだな」と。

 

 

そうじゃない。

地獄だったよ。

お前がいない地元で

誰にも頼れずにいたよ?

お前しか分からないよ?

 

苦しみも痛みも。

お前と分け合ってきたのに。

お前は違うのか?

 

 

気づいたら私は海に入っていた。

 

 

親友さえ救えない。

 

気づけなかった。

傷つけていた。

 

その言葉が本心なんだろう?

 

 

お前が音楽を棄てるなら。

私は自分を棄てる。

 

 

だが。

私は生きている。

 

そいつも生きている。

婚約相手が自殺をして

狂っていたそいつを助けた。

毎日通った。

 

今そいつは。

働いては長めの休みを取って

日本中を回っている。

「婚約相手が見れなかった景色を見せる」

そう思いながら。

 

 

あれから11年。

 

 

 

思い悩む時、

私は地元に帰る。

 

母校。

O海岸。

 

決して11年前のあの場所へは

戻らなかった。

 

 

でも。

今日だけは違った。

 

 

フラフラと運転を始め

いろんな人の言葉が響く脳内を

かき消すように音楽をかけ

いつものO海岸へ向かっていた

 

 

はずだった。

 

 

気づいたら迂回して

11年前の惨劇が起きたA海岸へと

ハンドルを切っていた。

 

 

道路も整備され

道もうる覚え

 

 

でも。

 

 

走っているうちにすぐに分かった。

 

 

導かれているように。

 

 

 

落ち着く波の音。

柵も防波堤も何も無い。

駐車場から先は

すぐ砂浜。

すぐ波打ち際。

 

何も変わっていなかった。

 

 

minatoの分のタバコに火をつける。

お墓がないからお線香代わり。

 

自分の分のタバコに火をつけて

空を見上げる。

 

キレイな北斗七星。

 

 

とある人の言葉をようやく思い出して

電話をかける。

 

 

平然を装った。

 

 

波の音で心も落ち着いていく。

 

 

ポツリ。ポツリ。

話したあと

車に戻るように言われた。

 

 

素直に従う。

 

 

でも。

 

 

 

呼ばれた気がした。

 

 

 

波の音が。私を。

 

 

 

minatoなの?

 

 

minatoの所まで連れてってくれるの?

 

 

 

私は波打ち際ギリギリに立った。

 

 

 

minatoの所へ連れてって?

 

 

 

聞こえたのは

「幸せにならないと逢いに来てくれないよ」

と。

電話相手の声だった。

 

 

『もう幸せだよ?』

私は言い聞かせる。

 

「本当に?」

 

 

 

ううん。

 

 

違う。

 

 

『生きたい』

『死にたくない』

 

 

 

平然を装っていたのに

何かが壊れたように泣いた。

 

 

生きたい。

 

 

でも。

疲れたの。

 

 

葛藤する私を怒るように

それまで穏やかだった波が

突然私のふくらはぎまで押し寄せた。

 

 

連れていっては、くれなかった。

 

 

まだ来るなと

追い払われたようだった。

 

 

 

minatoには

まだ逢えないのか。

 

 

まだ連れていってくれないのか。

 

 

まだ足掻けと言うの?minato。

 

 

ねぇ。

 

 

 

ママはどうしたらいいの?

 

 

 

 

砂浜に挿したタバコは

いつの間にか倒れて

途中で燃えるのをやめていた。

 

 

 

まだ

灰にもならないんだね、minato。

 

 

いつなのかな。

 

 

 

 

 

過去を置いていこう

 

そう決めた。

 

 

でも。

 

 

minato。

 

 

 

minatoは置いていかないよ?

 

 

 

 

一緒に行こうね。

 

 

一緒に歩こうね。

 

 

ママの目印になってて。

 

 

 

 

もう

 

 

この海岸にも来ないよ。

 

 

 

 

あの日に戻れはしない。

 

あの日の自分を救えない。

 

 

 

だから。

 

 

 

 

さよなら。

11年前の私。

 

 

 

さよなら。

阿字ヶ浦海岸。